『文章読本』丸谷 才一
著者の小説より、この『文章読本』が一番好き。旧仮名遣いもすぐに気にならなくなる。
引っぱってこられるのは、
わが国が誇るきらびやかな綾錦ともいうべき文章たち。
漢文、古文、謡曲、散文、エッセイ、
古きも新しきも自由自在に切り取られ、俎上にあげられ分析される。
もちろん、筆者の評価が高いものだけを選んであるので極上のものばかりだ。
著者のような「見巧者」あってこそ名文も浮かばれるというもの。
本を読み終わるのが悲しくなってしまうくらい、
幸福な時間を過ごせる。
紹介されている作品それぞれを読まなくても、この本だけで満足してしまうのだけが玉に瑕、なのかもしれない。
そしてもうひとつ、この本は著者は直接書いていないのに、彼の戦争と平和への姿勢が表現されるという、二重の構造を持つ。
俎上にあげられた文章の中には明治憲法と現行憲法なども入っている。
レトリックのお手本としては、大岡昇平の『野火』。イメージと論理の実例としてあげられるのは大内兵衛『法律学について』と吉行淳之介『戦中少数派の発言』など。文章を序論ではなく本論から始める最上の例は幸徳秋水『兵士を送る』だ。
これら戦争関連の文章は決して『文章読本』の中心ではない。あくまでも名文であるから実例として選ばれているに過ぎない。
けれど「記すに値することがあってはじめて筆を取れ」と締めくくられるこの書に、戦争に関する文章が入ってくるのは当然なのだ。著者の追及する大きなテーマのひとつが戦争と個人の関係についてなのだから。
『文章読本』 中央公論社
丸谷 才一
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