『レベル7』宮部みゆき
朝からどこかに出かけたくなるような快晴でもなく、端午の節句は午後から雨。
魅力的なお誘いもお断りして結局うちで読書……。BGMは、キース・ジャレット、ビル・エヴァンスなどのピアノでしっとりと。
宮部みゆき『レベル7』。
これはかなり初期の作品のようで表紙が少し古いデザインのように思える。SFっぽさも感じられる。
表題のレベル7とは、RPGの主人公のステイタスがあがっていくレベルに由来しているのかも。
女子高校生の失踪と記憶喪失事件の謎をそれぞれの関係者が追ううち、殺人事件と昔起きた悲惨な事故が浮かび上がり、それらが全て一人の男に収斂していく。
登場人物の過去も次第に明らかになる。謎が謎を呼び、クライマックスまで一気に引き込まれていくミステリだ。
宮部みゆきの作品は殺人事件を解くミステリなのに読後感がよい。例えば東野圭吾と比べると、ハッキリと異なることがわかる。何故なのか、考えていたのだが、ヴォルコシガン・サガの作者ビジョルドの言葉でわかった。
「本の中は正義や愛について学べるものであるべき」というような意味だった。
そう、現実社会が正義や「こうあるべき」姿とは全くそぐわないものであればあるほど、私たちはそれを物語の中に求めているのだ。不条理や悪はいくらでも目の前に転がっているのだから、せめて物語の中では世界はあるべき姿であってほしい。
いま日本では法律に触れなければ、何をやっても罪に問われない。司法と官僚・省庁などの行政機関は一国民の利益を守るために存在するわけじゃない。そんな社会に住んでいることを思い知らされた時から、物語やドラマの中で悪が法律を越えて裁かれる場面に心の中で快哉を叫ぶようになった。
宮部みゆきの描く社会は、いくら不条理な事件であっても、例えスパッと悪が裁かれなくても、人知れず虐げられた人々に対して正当な評価が与えられる。普通の人々のまっとうな感覚が貫かれる。背負っている傷を決して無かったことにはしない。弱者の、死者の、声にならない声をすくいあげる。だから何度も読みたくなるのだ。
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