『精霊の守り人』
引っ越しして泣く泣く多くの本を捨てた。といっても、段ボールで10数箱程度を古本屋に売ったんだけど 捨てなかったのは多くのファンタジーやSF作品。この「守り人」シリーズも初期のいくつかをハードカバーで持っている。
シリーズ最初が、この『精霊の守り人』だ。少し前にNHKでアニメ化され、それがまた素晴らしい出来だったので新たなファンを得たことだろう。藤原カムイさんのコミックも出ているらしい。(その後NHKで、同じ著者の「獣の奏者エリン」もアニメとなっている)
このシリーズの魅力はまず、活き活きとした登場人物たち。主人公の女用心棒バルサの背負う過酷な運命と、そのために培われた不屈の精神と武術の腕。悲しい過去を持つからこそ、同じように悲しみを背負う子を見ると看過できないのだ。それは彼女の弱さであり同時に強さでもある。
舞台はどこか違う世界。でも、まだ産業革命が起こってない、中世的な世界だ。機械化されていなくて医療も呪術的なものが色濃く残っている。
人々は支配階級と被支配階級に別れ、貧富の差は大きい。しかし、この世界自体と、貧しい人々の生命力は素晴らしい。怠け者にはとことん厳しい。特にバルサの生業・用心棒稼業は、常に死と背中合わせだ。彼女の心の奥底には複雑な思いがくすぶる。恩人への愛や屈折した怒り、自分の受けたむごい仕打ちなどが渦巻いている。
それでも、彼女はたまたま命を助けた王族の少年チャグムを守ることを決め、それに命を賭ける。「バルサはチャグムを守れるのか?」と、手に汗握る展開で一気に最後まで読んでしまう。
このシリーズでは、世の中の不正や欲望、陰謀、権力、また不思議な世界の生死などを排除していない。すべて認めたうえで、それでも最良の道を選んで生きることが描かれる。つまり、勧善懲悪などという単純な構図ではないのだ。
子ども向けだから、漢字も少なく、簡潔に表現されてはいるが、子どもだから単純にしてやらなければわからないだろう、なんてなめたところは微塵もない。誰かのために生きること、その価値を再確認したかったら大人だって読むといい。
もう一つ、この世が目に見えないもうひとつの世界に支えられている、という世界観も作品中大きな意味を持つ。それはまるで、環境を人間が変えられると信じている私たちの傲慢さは、目に見えない世界をも蹂躙し、同時にこの世界を枯らしてしまう、という警告のようにも感じられた。科学の分野で分かっていることなどほんの一部に過ぎないことを無視した結果、手ひどい火傷を負ってしまった現代人への。
『精霊の守り人』上橋 菜穂子
(偕成社ワンダーランド)偕成社
すみません!物語にシュガという人が出てくると、大滝詠一さんの「シュガーベイブ」の「シュシュッシュ、シュシュッシュ、シュシュシュシュシュシュシュシュガー」という歌が脳内リフレインしてしまいます~!
あと、アニメの主人公バルサを見てると、どうしてもきたいちゃんを連想してしまうのでした。ごめんね。
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